[2018/10/29]SRL通信「新株予約権の基本とその活用方法 その2」

前回の記事では、新株予約権の特徴として、日本においては、無償取得の場合で、かつ税制適格を利用できることが一般的に普及しているという点について、確認しました。以下では、それぞれの場合について、詳しくみてきましょう。

 

1.無償取得

 

新株予約権は「権利」であると言われますが、新株予約権の仕組みについて、まずみていきます。

新株予約権は、

 

  1. 会社が取締役や従業員に対して、あらかじめ定められた価額(権利行使価額)で会社の株式を取得することのできる「権利を付与」し、
  2. 取締役や従業員は将来、株価が上昇した時点で「権利行使」を行い、会社の株式を取得することができ、
  3. その後、取得した会社の「株式を売却」することにより、

 

結果として、株価上昇分の報酬が得られるという一種の報酬制度と言われています。

 

新株予約権には、有償取得と無償取得があります。無償取得ですが、2の取締役や従業員が権利行使をして株式を取得する際に「無償」である、と言っているわけではなく、1の取締役や従業員が新株予約権を付与される(取得する)際に「無償」である、と言っている点に注意が必要となります。

 

2の権利行使の際には、取締役や従業員が会社の株式を買うことになりますが、会社の株価が上がっていれば、安く購入することが可能になるため、そこにインセンティブがありますし、3では、株式を高く売却することができるため、そこにもインセンティブがあると言えるでしょう。

 

2.税制適格

 

次に、新株予約権の課税関係はどうなっているのでしょうか。新株予約権を受け取る側である取締役や従業員の立場から考えてみましょう。新株予約権には、上記のような3段階がありますが、1の新株予約権が付与されたこと自体は、所得として認識されません。

 

原則として、2の権利行使の時点で、行使時の株式の時価が権利行使価額を上回っている部分について給与所得として課税され、また、3の株式を売却した時点で、譲渡価額と権利行使時の時価との差額部分について譲渡所得として課税されます。

 

ただし、付与された新株予約権が「税制適格」の要件に合致している場合、2の権利行使時の際の課税は繰り延べられ、株式を売却した際に、売却価額と権利行使価額との差額部分が、譲渡所得として課税されます。これは、権利行使時に課税されないため、大きな利点であると言えます。

 

3.税制適格となる要件

 

それでは、「税制適格」の要件とは、何でしょうか。これは、「租税特別法第29条の2」に書かれており、主な要件には、以下のようなものがあります。

 

1.付与対象者が下記の者であること(ただし、大口株主(未公開会社の場合1/3超)及び大口株主の特別関係者を除く。)

・取締役、執行役及び従業員

・議決権の50%超を保有する子会社の取締役、執行役及び従業員

2.新株予約権割当契約において次の要件が定められていること

・譲渡が禁止されていること

・権利行使可能期間が付与決議の日後2年を経過した日から10年を経過する日までであること

・付与契約締結日の時価以上の権利行使価額が定められていること

・年間(暦年)権利行使可能額が1,200万円までであること

・権利行使時の新株の発行又は株式の移転が会社法に定める手続に基づいて行われること

・権利行使により取得した株式について発行会社と証券会社又は信託銀行との間で一定の管理信託契約を締結し、当該契約に従い一定の保管の委託又は管理等信託がされること

3.権利行使時に会社に対して誓約書等の提出をすること

 

4.受け取る(取締役や従業員)側のメリット・デメリット

 

新株予約権が無償取得でかつ税制適格を利用できる場合における、受け取る(取締役や従業員)側のメリット・デメリットについて、それぞれみていきましょう。

 

メリットは、何といっても、会社に対する貢献が利益として還元されることになるでしょう。通常、役員や従業員の成果や頑張りは、決まった額の給与報酬として還元されますが、新株予約権を持つ役員や従業員は、株価の上昇が自己の報酬につながるため、成果が直接報酬につながるといえます。そのような特徴があるため、新株予約権の利用は、IPOを目指すスタート・アップ企業に向いていると言えます。また、税制適格の要件を満たす場合、権利行使時に課税が繰り延べられるというメリットもあります。

 

一方、デメリットとしては、自社の業績や成長性以外の要因による株価変動が、将来の報酬に影響を与えるリスクが考えられます。例えば、日本や世界の経済が落ち込むと、企業の業績が良くても株価が下落する恐れがあります。また、権利行使をして株式を取得したのにも関わらず、その後、株価が低下する場合や、IPOを目指していたが、IPOに至らず企業価値が上がらなかった場合などには、従業員が利益を得ることは難しくなります。

 

5.付与する(会社)側のメリット・デメリット

 

次に、付与する(会社)側のメリットは何でしょうか。特にスタート・アップ企業の場合、豊富な資金がないことが考えられますが、新株予約権は、現金の流出なしで報酬を与えられる、というメリットがあります。また、新株予約権を付与した役員や従業員のモチベーションが上がることもメリットになるでしょう。企業の価値が役員や従業員の報酬に直結するため、経営参画の意識が増し、通常の報酬だけでは得られないモチベーションにつながることが考えられます。

 

一方、IPOを目指すスタート・アップ企業の場合、企業のIPO時に特に大きな利益が出る可能性が高いため、役員や従業員は自身の利益を最大化するためにIPOを目指ざします。そのため、IPOそのものが経営の目的として認識されてしまう可能性もあります。

 

以上、新株予約権のメリットとデメリットを踏まえた上で、活用していきましょう。

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