[2018/12/07]SRL通信ベンチャーファイナンス 投資契約の特殊な条項その3「みなし清算」

前回と前々回の記事では、「ドラッグ・アロング」、「タグ・アロング」についてみてきました。今回の記事では、引き続き、投資家が安心して出資できるような投資契約の「特殊な条項」について、みていきましょう。

 

1.残余財産分配権とは?

 

通常、会社が投資家に発行する株式は「普通株式」と呼ばれています。しかし、会社は、配当などその他の権利の内容が異なる2種類以上の株式を発行することができます。この際、「配当や残余財産の配分に関する権利が他の株式よりも優越する株式」のことを、特に、「優先株式」と呼んでいます。

 

優先株式の権利の中で、残余財産の分配に関する権利を「残余財産分配権」といいます。残余財産分配権に関する優先株式を持っている株主は、会社が「解散・清算」した際に、普通株式を持っている株主より優先して、残余財産の分配を受けることができます。

 

残余財産分配権は、ベンチャー企業やスタートアップ企業への投資で用いられる優先株式の権利の中でも、最も重要なものの一つと言われています。会社が「解散・清算」するときとは、投資家にとって投資が上手くいかなかった場合です。しかし、残余財産分配権に関する優先株式を取り入れることで、投資が上手くいかなかった場合にも、経営株主と投資家の分け前をフェアにすることが可能になるからです。

 

2.みなし清算とは?

 

しかし実際には、ベンチャー企業が解散・清算し、残余財産が分配されるケースは、あまり多くありません。投資家にとっては、M&Aによりベンチャー企業が買収されるケースの方が重要となります。

 

M&Aの際にも、解散・清算の場合と同様に、優先的に分配が行われることを投資契約などで定めたものを「みなし清算」条項と呼んでいます。これにより、M&Aの際にも、解散・清算されたものと「みなし」て、分配をすることが可能となります。想定より低い価格で買収された場合に、経営株主と投資家の分け前をフェアにすることが可能になります。

 

具体例でみていきましょう。

 

経営株主が100万円出資して会社を設立したとします。その後、会社が順調に大きくなり、投資後の企業価値を10億円とバリュエーションし、投資家が2億円を投資しました(経営株主が80%、投資家が20%の持株比率)。その後、この会社が4憶円で売却される場合を考えます。

 

A.普通株式のみで投資した場合

経営株主も投資家も普通株式だけで投資した場合、会社が売却されたときの分配割合は、持株比率になります。この場合、投資家は20%の比率ですので、20%の分配しか受けることができません。つまり、4憶円×20%=8,000万円となり、投資家は、8,000万円-2憶円=1.2憶円の損失を出すことになります。一方、創業者は100万円しか投資していないのに、3.2憶円の収入を得ることになります。

B.投資家の株式2億円が優先株式で、みなし清算条項を適用した場合

例えば、この優先株式の残余財産優先分配額を「1倍」とし、まず優先株式に2億円が分配されてから、はじめて、普通株式に分配が行われるとします。この場合、まず2億円が投資家に分配されます。残りの2億円を創業者80%、投資家20%という株式数の比で按分することになります。つまり、投資家の収入は、2憶+(2憶×20%)=2.4憶円となり、投資家は2.4憶円-2憶円=4,000万円の利益が出ることになります。一方、創業者は1.6憶円の収入になります。

 

このように、普通株式のみの場合は、投資家は損失を出すことになりますが、優先株式の場合は、投資家も創業者も利益が出ることになります。

 

3.適用条件と分配内容をどうするか?

 

どういった内容のM&Aの場合に「みなし清算」を適用するのか、対象となるM&Aが明確になるように定義し、これを契約に盛り込むことが必要になってきます。また、金額が低いM&Aでの投資家へのフェアでない分配を予防する、ということに目的をおく場合もあると思います。

 

例えば、以下のような適用条件を考えることができます。

・全てのM&Aに適用する。

・小規模なM&Aの場合にのみ適用にする。

・投資家が投資した時価総額を下回るなど、金額が低いM&Aの場合にのみ適用する。

 

また、分配の内容についても、契約に盛り込むことが必要になります。一般的には、優先株式の残余財産の優先分配権と同様にするケースが多いようです。

 

これらの条件については、経営株主や投資家などの契約の当事者間でじっくり話し合って決めることが重要になってくるでしょう。

 

4.投資家側のメリット・デメリット

 

みなし清算の内容を盛り込んだ投資契約を締結する際の、投資家側のメリット・デメリットについて、それぞれ見ていきましょう。

 

投資家にとってのメリットは、何といっても、優先的に分配されることにより、損失が出る可能性が低くなることでしょう。そして、リスクの高いベンチャー企業にも、思い切って高いバリュエーションをつけることが可能になります。また、投資側としては、低い価格のM&Aであっても利益がでるため、M&Aに積極的になるというのもメリットになるでしょう。

 

デメリットとしては、みなし清算の条項を適用できる条件を契約に盛り込んだ場合、その条件に合致しなければ、適用できない場合も考えられるということです。

 

5.経営者(企業)側のメリット・デメリット

 

次に、経営側のメリットは何でしょうか。まず、投資家に優先的に分配する権利を与えることで、高いバリュエーションでの投資が行われるようになれば、資金が集まり、より大きな企業価値のベンチャー企業を目指すことができるようになります。また、経営側はM&Aしたい場合であっても、投資家は自分に損失が出ることを懸念し、小規模なM&Aには難色を示すことが多いですが、みなし清算条項があれば、投資家の賛同を得やすく、積極的にM&Aすることも可能になるでしょう。

 

一方、IPOを目指すベンチャー企業やスタートアップ企業の場合、本当はIPOをしたかったのに、みなし清算条項を適用されてしまい、経営側としては不本意な低い価格のM&Aでも、株式売却せざるを得ない状況になってしまうことも考えられます。

 

以上より、みなし清算の条項を検討する際は、どういう条件で、どのような配分にするのかに関し、投資家とよく話し合って決めることが重要になってくるでしょう。

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