[2019/01/02]SRL通信ベンチャーファイナンス「日本版SAFE J-KISS」

ベンチャー企業の資金調達については、創業期が最も難しいと言われています。それは、創業期においては、バリュエーション(企業価値評価)することが非常に難しいからです。しかし、「コンバーティブル・エクイティ」によって、バリュエーション(企業価値評価)などの複雑な契約の一部を先送りすることが可能になります。

 

前回の「コンバーティブル・エクイティ」の記事においては、普通株式を使った「みなし優先株式」についてみてきました。今回は、日本版SAFEと言われているJ-KISSの契約書の内容に沿って、「有償の新株予約権」を使ったコンバーティブル・エクイティについてみていきましょう。

 

1.日本版SAFE J-KISSとは?

 

まず、「SAFE」とは、何でしょうか。SAFEは、「将来株式取得略式契約スキーム(Simple Agreement for Future Equity)」と言われることが多いようですが、簡潔に、「将来の株式のためのシンプルな契約」と訳すことができます。これは、アメリカで開発された、コンバーティブル・エクイティのための投資契約です。

 

また、SAFEに類似したスキームとして、「KISS(Keep It Simple Security)」があります。これは、「簡単に早くシンプルに資金調達するための投資契約書」と説明されています。「KISS」は、シリコンバレーで開発され、一般に公開されてきました。この「KISS」の日本版として、500 Startups Japanが「KISS」を日本の規制や実務に合わせる形で設計されたコンバーティブル・エクイティの標準契約書が「J-KISS」です。J-KISSは無償で公開されており、「誰もが自由に使える、シード資金調達のための投資契約書」であるとされています。

 

2.有償の新株予約権とは?

 

J-KISSの内容は、「有償の新株予約権を使ったコンバーティブル・エクイティ」と言われています。これは、どういうことなのでしょうか。J-KISSの内容に沿って、この新株予約権について、みていきましょう。

 

(「新株予約権」については、「新株予約権の基本とその活用方法 その2」の記事をご参照ください。)

 

J-KISSの新株予約権は、以下のようなものであるということができます。

 

  1. 投資家は、あらかじめ定められた価額(権利行使価額)で会社の株式を取得することのできる「権利(新株予約権)」に出資し、
  2. 将来、会社が株式資金調達をする際、投資家は、「権利行使」を行い、会社の「株式」を取得することができる。

 

1においては、通常、新株予約権を取締役や従業員が「無償」で取得する場合が多いですが、J-KISSの新株予約権は、資金調達の一種として、「投資家」が「有償」で新株予約権を取得することが想定されているということに注意が必要になるでしょう。

 

取締役や従業員が無償で取得する場合、1の取得時点では無償であっても、2の「権利行使」を行い株式を購入する際は、通常、対価の支払いが必要となります。一方、J-KISSの標準契約書の場合、2の権利行使の際に出資すべき価額は「1円」に設定されており、ほぼ無償であると言うことができます。つまり、2の「権利行使」で行われていることは、1で出資した「新株予約権」を「株式」に転換している、ということができます。

 

「株式」は会計上、「資本」として計上されますが、「新株予約権」も「資本」として計上されます。よって、J-KISSは、「資本」を別の「資本」に転換する資金調達方法である「コンバーティブル・エクイティ」、ということができます。

 

J-KISSでは、新株予約権の金額、株式に転換する際の条件などを穴埋め形式で埋め、投資契約書を完成させることができるようになっています。これらの条件などについては、会社や投資家などの契約の当事者間でじっくり話し合って決めることが重要になってくるでしょう。

 

3.投資家側のメリット・デメリット

 

J-KISSを使って投資契約を締結する際の、投資家側のメリット・デメリットについて、それぞれ見ていきましょう。

 

投資家にとってのメリットは、創業期にバリュエーション(企業価値評価)をしなくてよい、ということが挙げられます。また、有望なベンチャー企業の株式を安く購入できる可能性があることもメリットと言えるでしょう。J-KISSの投資契約書では、新株予約権から株式に転換する場合、株式に直接出資する場合と比べて、有利な条件を設定することが想定されているからです。

 

デメリットとしては、契約の内容によっては、有利に株式に転換できるとは限らない場合もあるでしょう。また、契約の内容や会社の状況によっては、新株予約権のままで株式に転換できない場合も考えられますので、注意が必要です。

 

4.経営者(企業)側のメリット・デメリット

 

次に、経営側のメリットは何でしょうか。会社側のメリットは、何といっても、創業期に迅速に資金調達を完了することができるという点です。J-KISSの投資契約書を用いることで、簡単な方法で、スピーディに資金調達をすることが可能になります。

 

一方、創業期においては、バリュエーション(企業価値評価)などの複雑な資金調達の契約などを「先送り」している状態であるため、時期が来れば、バリュエーションを含めた複雑な交渉を投資家と行う必要が出てくる点に注意が必要です。

 

以上より、J-KISSを使っての資金調達を検討する際は、投資契約の内容などについて、投資家とよく話し合って決めることが重要になってくるでしょう。

 

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